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●次はザールのワグナー家
電車に乗って20分。降りる駅はトリアー。ワインや葡萄栽培に関する教育・研究機関もあるこの町は、ローマ時代の遺跡が多く残っていることでも有名です。ポルタ・ニグラ(黒い門)と呼ばれる遺跡は町の中心の歩行者天国にあります。ぶらぶらして電車の時間に駅に戻りましたが、待てど暮らせど電車が来ない。駅員さんに聞くと、「この電車は土日しか走ってないよ」とのこと。ぼけーっと1時間後の次の電車を待ちました・・。しかも、この間、次の訪問蔵のワグナー博士家
に電話をしても全然出てくれなくて焦りました。この電話で出なかったら、もうタクシーを飛ばして行こう、と思った最後の電話にやっとワグナー氏が出てくれたので、次の電車で行くことを伝えました。
ようやく乗り込んだ電車は、20分ほどで、Dr.ハインツ・ワグナー家のあるザールブルグに到着。この駅でも当然ながらワグナー博士はすぐに私達を見つけてくれ(私達以外にこのドイツの奥地にまでやってくる東洋人がどこに居よう?)お迎えの車に。ワグナー家は駅の真後ろ、徒歩30秒の位置なのですが、このワイナリー見学をコーディネートしてくれた方が、「日本人は荷物が多いから車で行かないとだめだ」と教えてくれたそうです。しかし、私達の異様に少ない荷物(2人で小型ピギーバック1個とリュック2個)に、「荷物はそれだけ??」。(私、省荷物の達人を自負していて、海外旅行はいつも国内2〜3泊用のバッグで行ってます。みんな驚きますが。)
車はあっという間にワグナー家のお屋敷に。大きな納屋や裏庭があって、ワイナリーというのは農家なんだなと実感します。かわいいアヒルの表札の玄関から入ると、しーんと静まり返ったお家。古いお家ですが、大切に使い込まれた愛情を感じるお宅です。ワグナー博士はきっと60歳は越えていると思いますが、ジーンズが良く似合うおじさまです。
荷物を置いて、まずザールブルグ観光に連れていって貰いました。まず、山の上の廃城に。塔の内部には階段がついており上にあがれるようになっています。ここから見るとザールブルグの町が360度見渡せ、ワグナー家の銘醸畑ラウシュも一望できます。ボクシュタインの畑は丘の向こう側斜面だということで、残念ながら見えませんでした。「こんな急な栽培地だし、多くの農家は採算があわなくてどんどん廃業しているよ。ザールブルグの15キロ先はルクセンブルクなので、若い者はルクセンブルクに働きに行ってしまう。」と寂しそうでした。
「多くのワイナリーや葡萄栽培農家が廃業している」というのは、前日に訪問した蔵の方も良く言っていました。真摯にワイン造りに取り組むことによって競争力をつけて評価を上げ、この急斜面での手作業に見合う収入がなければ、確かにこの厳しい土地ではワイン作りを続けていくことは非常に難しいと思いました。「畑の隣の所有者も廃業するんだ」とおっしゃるので「買うんですか?」と聞くと、「(季節労働者を除いて)私一人でやっていくには、今の所有面積(9ha)で十分だよ。これ以上はできない。」とのこと。栽培チーム、醸造チームで造ることが多い新世界のワインに対して、モーゼルのワイナリーは真の意味で「家業」なのです。
そのあとは小さなお店が並び、ザール川に流れる小さいけれど水量豊富な滝が流
れるしっとりした静けさが漂う旧市街を散策。ザール川は、モーゼル川の支流の一つ。モーゼル川も思っていたより小さかったので、このザール川はさらに小さな川でした。
次はラウシュの畑に。道を隔てた上と下では葡萄樹の様子が違います。良く見ると上の畑は伸びた枝のいらない部分を切り落として添え木にちゃんと結わえてあります。下の畑はまだこの作業が終わっていないのでぼうぼうに見えるのです。「この作業をした方としていない方では、葡萄の実の成長が違うんだよ」と教えてくれました。見比べると、数日前に作業をしたばかりというのに、確かに実は
微妙に大きさが違いました。こうした作業は季節労働者に任せているそうで、多くはポーランドの人とのことでした。
●「仙人の住む」セラー
さて、ワグナー博士のお宅に戻って、まずは地下セラーへ。セラーに続く階段は石造りですが、長年の使用で角が丸くなっており、歴史を感じさせます。この丸まった階段はどんな言葉より強い説得力を持っていました。ワグナー家のセラーはザール最大のものだそうで、まるでトンネル!奥行き30メートルほどの長さのセラーが4本あり、横に通る道で繋がっています。ぼんやりとしたあかりに浮かぶ樽や熟成中の膨大な量のボトルは幻想的でもあり、しーんと静まり返ったこのセラーには感動しました。ワインの妖精、いや、「仙人」が住んでいそうでした。数年後に出荷するというゼクトも、まだコルクではなくビールの王冠のようなフタがはめられ、すやすやと眠っていました。きっと何年後かにこのゼクトを売る機会に恵まれた時、「ああ、あの時に眠っていたワインだな」と、感動するだろうなあと思いました。
お部屋に戻ってティスティング。ワグナー博士のワインは「酸が強い」という評論家もいるらしいのですが、少なくとも、今回試した2000、99年ヴィンテージでは私は全くそう思いませんでした。濃く充実した果実味は優しく上品な甘味となり、土壌を反映するミネラル感、酸は「突出している」どころか、ワインの味わいの要素をまとめているような印象で、バランスがとれています。どのワイン、どのランクも本当にきれいな味わい。残念ながら帰りの電車の時間が迫っていたため、あまりゆっくりとティスティングする時間がなかったのですが、博士は、「これを持って帰って」と言って、なんとアイスヴァインをお土産に持たせてくれたのです!「涼しいところに置いておいてね」と何度も念を押す姿は、まるで我が子を送りだすようで、ワグナー博士のワインに対する深い愛情を感じました。このワインは今当店のセラーで眠っていますが、なかなか開けられそうもない記念の1本になりました。
今度は3人で歩いて駅まで行きました。今までいつも遅れてきていた電車が、今 回は時間どおり来ました。小さな駅なので、電車に乗り込むとすぐに出発。ずっ
と手を振っていてくれるワグナー博士が小さくなっていきました。3時間ほどし かいなかったのに、ちょっとうるるん滞在紀な気分になってしまいました。
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