南フランスワインレポート
店主まーちゃんがゆく・・4


●シャトー・マス・ヌフ

ちょっとばかり道に迷いつつ、最終日2件目のワイナリー「シャトー・マス・ヌフ」へ到着。この蔵は、ローヌとラングドックの境目といえる、ニームという町にあります。今まで訪問したワイナリーが全て家族経営だったのに対し、ここは会社組織らしい感じで、ご当主であるリュック・ボデ氏の他にマーケティング・ディレクターのシェアン氏もお迎えしてくれました。18世紀に建てられた郵便局をセラーにしており、石造りのこじんまりとした建物が中庭をコの字型に取り巻いている様子は、どことなく懐かしく幼稚園ぽい趣があります。

瓶詰め作業 ところで、南仏のワイナリーに「マ(ス)」とつくところが多いことにお気づきの方もいるかと思いますが、これはこのあたりの言葉で「大きな家」を意味するそうです。

このワイナリーは2000年にボデ家が買収すると、瞬く間にこの地区を代表する蔵に駆け上がり、パーカー4つ星、「ル・デュ・ヴァン・ドゥ・フランス」(フランスのワイン雑誌)4つ星という評価を得ました。ラングドックの品質重視型の蔵としての地位を築き、ミシュランの星付きレストラン(3つ星も含む!)のワインリストにも多数載せられています。

ニームは1件目のシャトー・ヌフ・デュ・パプより更に南下した場所にあることや、時刻が午後2時頃だったこともあるのか、日差しを強く感じます。また、カラリと乾燥しているので、とても喉が渇くのです。でも葡萄にとっては、空気が乾燥していることで病害のリスクが下がり、結果として農薬の量はぐっと抑えることができるという利点があるのです。ここの畑の土壌は、シャトー・ヌフ・デュ・パプ村の平地の畑に良く似ていて、見た目はレンガ(ただし、触ると固い)が砕けたような感じの小石が散らばっています。コスティエール・ド・ニームのAOCを持つワインの中には、「ラングドック」と書いてあるものと、「ローヌ」と書いてあるワインがあり、「一体ほんとのところはどうなのよ?」と今まで思っていたので、ボデ氏に聞いてみると、「ローヌの土壌のところはローヌと書くね」とのことでした。ワインの教本では、コスティエール・ド・ニームはラングドックとなっているのですが、現地の人々は結構柔軟に考えているようでした。(AOCってこんなもん?)ちなみに、このあと行った蔵も AOCはコスティエール・ド・ニームでしたが、看板には「ラングドック」と書いていました。
  

畑の一角は、来年植え替えをするという2ヘクタールの古樹の区画があり、もう葉もつけていなくて、ぐにゃぐにゃ、ごつごつとした葡萄樹が立ち並んでいる光景は、緑の畑を見慣れたあとには荒涼とした感じがして印象的でした。

セラーには、シャトー・ディケムの1年使用樽も並んでいて、ヴァン・ド・ペイのシャルドネを熟成するそうです。贅沢なヴァン・ド・ペイですね。多くの蔵が瓶詰め工程をレンタルですませたり、他の施設に頼る中、ボデ氏は「瓶詰め施設も自前です。製造の全てに責任を持ちたいからです。」と熱く語ってくれました。

自慢のワインを次々とテイスティングさせて頂きましたが、印象に残ったのはこの蔵の最高峰のシラー。私は甘濃系の赤が好きなのですが、まさにストライクゾーンど真ん中!これが輸入されたら仕入れますので、是非買って下さい!テイスティングもさることながら、ここで面白かったことは、インポーターの仕事を垣間みれたこと。バレンタイン用(ちなみにこの時はまだ8月です)に輸入を検討中のワインのパッケージングについて、キャップシールの色がああだこうだ、瓶形はボルドー型かブルゴーニュ型かなどマーケティング・ディレクターのシェアン氏と協議をしているのですが、シェアン氏もビジネスが絡んいるので当然ながら、「このキャップシールの色は特注になるから高くつくよ」などとなかなか手強い(笑)。当店では、地酒は当店独自のラベルを作ったり、蔵と相談したりして進めることもありますが、ワインについてはラベルやキャップシールにまで口出ししたことなどないので、面白い体験でした。

●最後の見学蔵 シャトー・レルミタージュ
カスティヨン氏 さあ、泣いても笑ってもこの蔵が最後。「明日から本当の休暇だ!」という気持ちと、「これで蔵見学が終わりなんて寂しい」という気持ちが入り交じり、ちょっと複雑な心持ちで最後の見学です。

蔵のお名前は「シャトー・レルミタージュ」。家族経営ながら80haの畑を所有していますが、その全てはこの30年間でカスティヨン家の親子2代で開墾したというから驚きです。コスティエール・ド・ニームの丘の南側に位置し、最大限の日照量と涼しい海風が生み出す気候によって、果実味の濃い健全な葡萄が作られます。お父様もまだ大変元気でいらっしゃいますが、現在は2代目である31歳のジェローム・カスティヨン氏が醸造家として活躍しています。彼は、先日当店でもご紹介した、ローヌ北部の名門生産者組合「カーヴ・ド・タン・エルミタージュ」で修業した経歴を持っています。ワインの話とは関係ありませんが、ハンサムな方です(笑)。

まずはセラーを見学。ひんやりとしたセラーは半地下になっていて、外から見るよりずっと広く感じ、天井も高いのです。薄暗い中にかなりの数の樽が置いてあります。樽が置いてある場所は2つに分かれているのですが、そのうちにひとつはかつて馬小屋だったとのことで、壁の高い位置に窓がついていて、外からその窓をあけて馬に草を落としてやっていたそうです。でも、今ではそんなことは教えてもらわないと全くわからないくらい、床はきれいにレンガが敷かれて、細い排水溝がつけられ、機能的に出来ていました。その場所の一角は小部屋になっていて、オールドヴィンテージのボトルがぎっしりと積まれていました。「これは出荷して頂けるんですか?」と尋ねたら、「これは自家用なんです。どのワインがどのように熟成するかをみているんです。」とのお返事でした。残念!しょっちゅう古酒飲んでるんだろうなあ・・。うらやまし。

  

セラーを出て、今度はジェローム氏の運転する4WDで畑に向いました。見渡す限りの葡萄畑は圧巻。「この道行けるかなあ?」なんて言いながら、道なき道?を通ると、まさにオフロード、なかなか面白かったです。畑に着いて、例のごとくまた葡萄を食べさせてもらうのですが、どこに行っても「味見だからちょっとでいいです」と言っても大量にくれるんです・・。手がネチャネチャになってしまうんですが、これでいかに糖度が高いかわかるというものです。収穫してたら、あっというまにハサミや指が開かなくなるというのも安易に想像できました・・。

この蔵では機械収穫をしています。多くの蔵が手摘みにこだわる中、ジェローム氏は機械収穫の利点を説明してくれました。まず、優秀な人手が足りないということ=収穫日に必ず来てくれて、きちんと選別して収穫してくれる質の高い労働力を確保するのは難しいということです。これは、前に訪問したラ・バスティード・サン・ヴァンサンのギー・ダニエル氏も「収穫当日に、来れなくなった、なんて言われると本当に困る」とぼやいていたので、良くわかりました。また、収穫は外国人労働者も多いのですが、その時限りの仕事と思う人の中には「責任をもって良い仕事をする」という意識が低い人もいるのでしょう。「80haもの畑を、とても家族で収穫できませんよ」。私が「でも、機械収穫で葡萄を選別出来るんですか?」と食い下がると、「収穫機も色々なタイプがあります。うちのはそういう仕組みです。戻ったら見せてあげますよ」。

蔵に戻って早速収穫機のところへ。で、でかいっ!!止まっていても恐ろしいくらいなので、これが動いてこっちに来たら、ホントに怖いと思いました。一番高いところで3メートルほどでしょうか?タイヤもごつくて、ブルドーザーみたいな感じです。ルノー製なのが、さすがフランス。なんとこの機械1千万円くらいするそうです!左側前輪の上に運転席があり、タイヤとタイヤの間に葡萄の樹列を挟んで進むようになっていて、タイヤとタイヤの間には、ろっ骨のように左右から何本かの白い横棒がついていて、これが葡萄樹を挟んで揺らします。そうすると振動で熟した葡萄だけが落ち、熟していないものは樹に残るそうです。横棒の下部はベルトコンベアーになっていて、落ちた葡萄は収穫機の後部にある箱に運ばれる仕組みになっています。箱が冷蔵なのかと思いましたが、そうではないとのことでした。これが冷蔵だったらもっといいのに!考案して特許でも取ろうかしら?(でも、冷蔵のもあるような気がします。私でも思いつくぐらいですから・・)

この後、ワインを試飲させて頂きましたが、ジェローム氏は日本酒にも少し興味を持たれているようで、どのようにして作るのかと聞かれました。私が「ワインと日本酒との一番大きな違いは、(原料の違いの他は)水を使うかどうかだと思います。日本は山が多く良い水に恵まれていて、それが酒造りが発展した要因だと思います。」と話すと、納得された様子でした。この蔵が最後と思うと、出されたワインも「テイスト」ではなく、しっかりと飲んでしまいました・・。ご自慢のワインは、ここの最高級品。ボウリングのピンのような非常に印象的なボトルに詰められていて、味わいは産地のイメージよりずっと繊細な感じです。これから5年間かけて、5ヴィンテージのセットを作るそうです。壁には、このワインのラベルのデザイン画が飾ってあり、5ヴィンテージのラベルは、赤系の色合いのグラデーションで少しずつ変えています。これがちゃんと5ヴィンテージ集まって木箱に入ったら、本当に素敵だろうなあと思いました。

外に出て、お父さん、お母さん、ジェローム氏と写真を撮らせて頂きました。お父さんが、とてもこの広大な土地を開拓した強者には見えない温和そうな方だったのが印象的でした。ジェローム氏には男の子の双子が生まれたそうで、「3代目ももういらっしゃるなんていいですね。」と言うと、皆さん本当に嬉しそうなお顔をしていました。家族で力を合わせて仕事をすることに誇りを持っているのが感じられました。

そうそう、この蔵には、白馬が2頭います。仕事に使うのかと思っていましたが、ペットだそうです。さすが土地が広いと、スケールが違う・・。 産地を廻って、こうして生産者の様々な話をじかに聞くと、葡萄作り、ワイン作りの正解は決してひとつではないということが良く判ります。昨年ドイツに行った時にも、ある人は絶対に天然酵母でないといけないと言い、またある人は培養酵母の優位性を話してくれました。また、ある人は人工コルクを嫌い、ある人は積極的に使用していました。

今回のローヌ・ラングドックの旅でも、本で勉強しているだけでは知りえない様々な事を見聞き出来ました。収穫直前の忙しい中、私達のために時間を割いて下さった蔵元の方々には本当に感謝しています。

ご存知のように、私達が帰国した直後、このあたりは酷い洪水に襲われ、大変なヴィンテージになってしまいました。訪問した蔵も、マス・ヌフは収穫が少し早かったため難を逃れたということでしたが、他の蔵は被害を受けて収穫量が減り、また、やむなくワインを格下げするところもあったとの事です。本当に残念な事で、蔵の皆さんの気持ちを考えると悲しくなりますが、自然を相手にずっと仕事されてきた方達のこと、きっと新しい希望を持って、新年を迎えられることと思います。2003年が、今年の不運を吹き飛ばすほどの良いヴィンテージとなることを、心から祈っています。

  


終わり

  マスヌフ看板
明るい南仏の陽光に映えるマスヌフの看板。


畑
きれいに手入れされた畑。ここでも畝の間に草を生やしています。



植え替え予定畑
ここが来年植え替える予定の畑です。荒涼とした風景。



ボデ氏
わずかの期間でこの地区のトップ生産者の一人となった、リュック・ボデ氏。にこやかな印象でした。




レルミタージュ看板
シャトー・レルミタージュの看板。マス・ヌフと同じコスティエール・ド・ニームですが、ここは「ラングドック」の表記が。



カスティヨン家
カスティヨン家。白壁と咲き乱れる花々がとても美しいお家です。



収穫機
これがその巨大な収穫機。左端に写っている私と比較して下さい。でかいでしょ?



収穫機内部
タイヤとタイヤの間はこんなふうになってます。内部に見える白い骨組みの間で葡萄樹を挟み、揺すります。



レルミタージュ試飲
試飲中。



家族3人
カスティヨン家のお父さん、お母さん、ジェロームさん。



白馬
ペットの白馬です。ペットで馬飼ってるって・・すごい。






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